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旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪ル.ジタン≫


   ≪ル.ジタン≫


私は、この映画を見るまで、ジプシーというものの
生活がこれほど悲しいものだと、知らなかった。

住むところも無く、たとえ一時、住まわせてもらっても、
街のごみ捨て場しか与えてもらえない。

民族の難しい問題などで、島国のわれわれには想像も出来ない
社会があるということを30年前のこのとき、
具体的に見たような気がする。

1975年作  ≪ル.ジタン≫...ジプシーのことである。
監督は後日紹介する≪暗黒街のふたり≫の監督で、
ジョゼ.ジョバンニ..原作も脚本も、この人が手がけている。

戦時中にレジスタンス運動に参加し、
何度も死の危険にさらされながら、冒険的な活動に青春の情熱を
かけた人なのだそうだ。

戦後も暗黒街に生き、刑務所生活も含めて、様々な経験を
積んでしたことで、彼の製作した暗黒作品は、
リアリテイーに富み、こういう分野で冴えを
みせている。

  ル.ジタンも彼の経験を生かして作られた中味の濃い
   娯楽野心作であり、われわれ女性から見ると、
哀愁と、詩とむなしさと、そして孤独な男同士の
出会いなど、心に染みる作品だと思う。

人を殺すということは悪いに決まっているが、
その行為の裏側にある、男の社会への恨み、民族問題に、
焦点をあてて観ると、彼の生い立ちからくる
何かに必死に立ち向かっているサガというものが感じられるのは
演技として成功しているように思ったのは私だけであろうか。

ストーリー
ベルギーの片田舎。今日もごみ捨て場の空き地に何台もの
ジプシーのトレーラーカーがとまっている。
幌馬車に変わった現代ジプシーの移動家屋である。

警官隊が脱獄したル.ジタンと呼ばれているセナール(ドロン)の捜索に来ている。

フランス警察のブロー警視も彼を追っていた。
ジプシーの立ち入りを拒んだ村長を殺し、服役していたが、
ムショで知り合った、ジョー(レナート.サルバトーレ)、
エルマンとともに脱獄し、逃亡していたからだ。

もうひとり、警視は老やくざを思い出していた。
ヤン.クック..(ポール.ムーリス)。
20年前までは金庫破りの名人として
鳴らしたものだが、今は、足を洗って、アパートやレストランを
経営していた。
警視はそれは表向きだけで足を洗ったとは思ってもいなかった。
セナール達は、神出鬼没、堂々と顔をさらしたまま
大都会の商店や、銀行を襲い、風のように消える。

ヤンのほうも手口が鮮やかでなかなかシッポを捕まえることが
出来ない。
セナールは自分のお金ほしさに強盗をするのではない。
ジプシーたちを養うためなのだ。
ジプシーに対する不当な扱いや、差別に対して激しい憤りを
抱く男なのだ。
繰り返す犯罪に、なおも、官憲に対して闘いを挑むル.ジタンは
現金強奪や社会に復讐を続けていく。
面白いのはヤンのほうも宝石店を仲間と襲い、
ブロー警視から追われだしたが、
たまたま、襲った夜明けに家に帰ると
妻の浮気がわかり、問い詰めているうちに
妻がバルコニーから転落して
死亡する。その浮気相手がブローの若い部下であったが、ヤンは
そこまではまだ知らない。
そのヤンが家を離れ、仲間と落ち合うために移動する先々で
ル.ジタンたちとかち合うのである。
ヤンは警視が自分を追ってきたと思い、ル.ジタンたちは
自分達を追ってきたと思っている。

その間にセナール達は、自分たちジプシーをうじ虫、などと
呼んだ、かって逮捕されたときに取調べをした予審判事リケを
見つけ、殺すということや、強奪を繰り返し、
彼は取り分はと言えば
全てジプシーの仲間に渡していた。

警視ブローは、カジノ、キャバレー、バー、など暗黒街と関係のありそうな場所を徹底的に立ち入り捜査した。
密告や自衛のために捜査に協力させるよう脅した。

ヤンやセナール達は、仁義というものがあるだろうと、
捜査協力した店のオーナーリナルデイー兄弟の前に銃口を向け、
静かに立った...

ブローはヤンを張り込めば必ずセナール達に出くわすので
忙しい。しかし、彼らヤンとセナールは偶然に驚いているだけだ。

襲っては、逃げ、逃げては、また襲う...
繰り返していて、ついにジョーとエルマンは警察の銃弾に
倒れたが、セナールが逃げたとき、また偶然そこにいたヤンは
ついに逮捕されたが確たる証拠も無いまま釈放された。
久しぶりに帰ったマンションの駐車場にセナールが待っていた。

”とんだとばっちりをかけて済まなかった。”とひとこと
謝りにきたセナールに
”ずぶぬれじゃないか。寄っていけ”と部屋へ招き、
食事を与え、”シャワーを浴びろ、バスローブはそこだ”...
しかし、バスローブなど使ったことなど無いジタン.セナールは
苦笑いしながら、おどけて見せた。
ヤンはなんだか彼セナールに共感を覚え、しんみりと話し、
今夜は泊まっていけよ”と言った。

夜明けに出て行くからと...
しかし、ブロー警視はすでにヤンの仲間を捕り押さえていて、
夜明けに逮捕に向かう準備をしていた。
エレベーターの前で待つセナールはとっさに気が付き、
ブロー警視を盾にヤンを救おうとしたが、
ヤンは”俺はおまえ達と違うし、もうこの先どうなってもいいんだと、セナールに車のキーを渡し、ブローを連れてセナールは
車に乗り込む。手を上げたまま見送る警視は
”なぜ、俺を撃たないんだ?”
セナール”俺は人殺しじゃない”
ジタンの犯罪の動機を知る警視は一服しながら
なんだか不思議な共感を覚え、笑った....

今日も、ジプシーの車はあそこから警官達に追われている。
その様子を貨物列車に隠れてみるセナールは口笛で
かわいがっている少年を呼んだ。

”警官がまた、僕たちを追い出すんだ。僕も連れてって...”
”だめだ、もう少しの辛抱だよ、きっといつかいい日がやってくる
学校にもいける日がきっと来るからがんばるんだ、いいね”
と言って少年をしっかりと抱きしめ、別れた。
じっといつまでも去っていくトレーラーを
ジタンは見続けた....

ジプシーの奏でる哀しいギターの調べといつも悲しい目をしている
アランがたまらなく、涙も、とまらない作品です。

アクションそのものより、男達の奇妙な友情や仁義、
警視が敵ながら共感を感じる人間らしさなど、そういったものが
作品の味をいっそう盛り上げています。
孤独な男同士の出会いに心和らぐときがある。
汚れない子供と接するときだけが安らぎのときであった。

それでも、ジプシーの犯罪者としてこれからも
逃げつづけるのであろう。

1975年度  
監督 ジョゼ.ジョバンニ
撮影  ボルサリーノのジャン.ジャック.タルベ

若者のすべてで共演した、レナート.サルバトーレが
共演しているし、女優アニー.ジラルドも
ヤンたちがまだチンピラだったころ、みんなのアイドルだった
女性と言うことで、今はちょっとしたホテルを経営していて、
ヤンを匿う役で出演している。

ドロンの映画ももれなく、どの作品にも同じ共演者達が
顔を並べていて、いつも一緒に仕事をしているんだなあと
うれしくなります。
が、続けてみると、顔ぶれが同じでどれがどれだか...
敵だったり、味方だったりとややこしい??
おなじみさんになりますね。
そしてヤンに扮しているポール.ムーリスはあの
≪悪魔のような女≫などに出演している
フランス映画界の大御所です。




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